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●鳥インフルエンザ(H5N1型)の高い致死率
培養細胞(緑)の中で繁殖する
H5N1型ウィルス(金色)
(写真:CDCより)
単に「インフルエンザ」と聞けば、感染したことのある人は少なくないでしょう。インフルエンザで亡くなる確率はさほど高くはありません。多くの場合、安静にして水分を充分に摂れば、自然に治癒していくものです。
しかし、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)が人間に感染した場合、その致死率は驚くべきものです。世界保健機関(WHO)の2008年3月4日のデータによると、03年~09年に世界で鳥インフルエンザの感染者は447人、うち死亡したのは263人(感染者の実に59%!)となっています。
●一般のインフルエンザとは違う恐怖の症状
高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の患者が高い確率で死亡しているのは、H5N1型のウイルスが一般のかぜやインフルエンザのウイルスと違って病原性が高く毒性が非常に強い(強毒性)からです。このため、重症の肺炎(呼吸ができなくなり、水におぼれたのと同じ状態になる)や脳炎、多臓器不全などを引き起こすのです。
しかも、発病から死亡までの期間が非常に短いという特徴があります。発症から1週間から10日間程度、長くても1カ月以内には死に至ります。
●鳥インフルエンザ、豚インフルエンザと新型インフルエンザ
2003年以来、主に東アジアで高病原性鳥インフルエンザ((H5N1型)が鳥の間で大流行していますが、これは基本的には人間に感染しません。鳥インフルエンザのウイルスが人間の鼻やのどでは繁殖しにくいためです。しかし、人間の肺の奥では繁殖しやすいため、ウイルスを大量に吸い込んだ場合などに偶発的に人間にも感染しています。それによる死者が前述した265人です。
このように、鳥インフルエンザは基本的には、鳥から鳥に感染するものですが、現在、東南アジアを中心に鳥から人への感染が増え続けています。この状況が続けば、やがてウイルスが突然変異を起こすなどし、人から人へ感染しやすい新型ウイルス(新型インフルエンザ)が発生すると予測されています。2009年に豚のインフルエンザが人から人に感染しやすい型に変異し流行しているのと同じですが、この新型インフルエンザは幸い毒性が弱かったので、死者数が比較的少なくてすんでいます。しかし、鳥インフルエンザが次の新型インフルエンザに変異した場合、人類に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。そして、厚生労働省は「鳥から人への感染が続く状況は、新型に変異する土壌があることを示している」と警戒しています。
豚インフルエンザが弱毒性だったため、「何だ、新型インフルエンザなんて大したことないじゃないか」と油断してしまいがちですが、違います。豚由来の新型インフルエンザで学ぶべきは流行の速さと広さです。あれだけ予防してもあんなに広がった豚由来の新型インフルエンザ。「もし、これが強毒性だったら…」と考えるのが現実的なあり方です。皆様の危機管理、大丈夫でしょうか?
(図:愛媛県HPより)
●過去の新型インフルエンザ
新型インフルエンザは過去にもたびたび発生しています。20世紀以降では次のようなものがあります。
発生年 | 型 | 当時の呼び名 | 発生地 | 推定死者数 |
1918年 | H1N1 | スペインかぜ | 北米/中国 | 世界で4000~5000万人、 日本で39万人 |
1957年 | H2N2 | アジアかぜ | 中国 | 世界で100万人、日本で8千人 |
1968年 | H3N2 | 香港かぜ | 中国 | 世界で100万人、日本で2千人 |
1977年 | H1N1 | ソ連かぜ | 中国/ロシア | |
2009年 | H1N1 | 豚インフル | メキシコ | 09年12月22日現在、日本だけで128人 |
スペインかぜが大流行した際、患者が大量に収容された米軍の
野戦病院(米国カンザス州)。当時の世界人口の約半分に感染した。
(写真:ウィキペディア「感染症の歴史」より)
※香港かぜやソ連かぜは今も続いています(今のインフルエンザは基本的にこのどちらか)が、低病原性で死亡率が低いので、死者がこの程度でとどまっています。09年に発生した豚インフルエンザもそうです。
※豚インフルエンザが新型インフルエンザに変異したからといって、強毒性と予想される鳥インフルエンザが新型に変異する可能性が弱くなったわけではありません。
●死者予測・5億人!
しかし、新型インフルエンザ・ウイルスの性質は、それが出現してみないと分からないため、あらかじめ有効な対策がとれません。
というのも、現在、鳥インフルエンザ患者の致死率が60%を超えており、次の新型インフルエンザがそれと同程度かあるいはそれ以上の極めて高い致死率を伴う可能性が十分にあるからです。実際の致死率は発生してみないと分かりません。